インフルエンザの予防接種について。インフルエンザ全体のページから分割して、ここにお引っ越ししました。

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インフルエンザの予防-予防接種

現実で最も重要な防御は、予防接種

マスク・手洗い・うがい。とても大事です。人混みに行かない事も大事です。でも実際には、現代社会でこれらの注意を細大もらさずやり通すのは、実はかなり難しいです。また、どんなに注意していても、完全に感染を防御する事はできません。あなたの周りにはウィルスがいっぱいいます。それを100%寄せ付けないって事は無理なのです。

だからこそ、「ウィルスが来てもいいように」しておかなければなりません。そのために最も重要なのは、正しく予防接種しておく事です。

インフルエンザの経過

インフルエンザの経過

ワクチンについて考える前に、まずインフルエンザの経過を知っておきましょう。非常に単純化しますと、一般的に次のような経過になります。

  1. ① 空気中のウィルスが呼吸と共に鼻の穴に入り、そこら辺の粘膜に付着しようとする。
    人体は鼻の穴の粘膜から"分泌型IgA"と呼ばれる抗体を出して付着を防ごうとする。
    このIgAによる初期対応で付着を阻止できれば、感染自体を防げる事になる。
  2. ② 感染を阻止できなかった場合はウィルスは付着→繁殖する。
    すると人体は血液中から"IgG"と呼ばれる抗体をにじみ出させてウィルスを攻撃する。
  3. ③ ウィルスを無事排除。治る。

さて具体的な予防接種薬剤の話

2024年10月から、“フルミスト”という経鼻噴霧ワクチン(鼻の穴にプシュッ!と入れる;花粉症の点鼻薬と同じ使い方;注射ではない)が登場しました。【当院では準備中】

これで、インフルエンザワクチンは大きく2種類あることになりました。

①注射ワクチン(不活化ワクチン)

普通に腕に注射するワクチンです。インフルエンザウィルスを殺してバラバラにし(="不活化")、その破片を用いて作成します。バラバラ死体ですから病原性はなく、これを接種しても「インフルエンザにかかる」という事は起こりません。よっていわゆる副反応が少ない。2024年現在、最も一般的で馴染のあるワクチンです。

このワクチンは主として血液中にIgG抗体、つまり上記の経過中の②で活躍する抗体を作ります。逆に言うと②まで来ないと出番がない。ウィルスが鼻の穴の中に付着すること(=感染)自体を防ぐものではなく、感染後のウィルス繁殖を抑え込む、つまり重症化させないためのワクチンです。

効果は接種後3~5ヶ月程度です。

 

②経鼻噴霧ワクチン(生ワクチン) 商品名:フルミスト

鼻の穴にプシュッ!と噴霧するワクチンです。花粉症の点鼻薬と同じ使い方であり、注射ではないため痛くありません。

このワクチンは鼻の穴の粘膜に分泌型IgA抗体、つまり上記の経過中の①で活躍する抗体を作ります(+②で活躍する血液中IgG抗体も作る)。ウィルスが鼻の穴の中に付着すること自体を防ぐので、「そもそも感染しない」効果が期待できます。また効果が長く、1流行期は余裕、少なくとも半年は続きます。

しかしよくない点もあります。

分泌型IgA抗体は不活化ワクチンでは作る事ができません。生ワクチン(生きたウィルスを使うワクチン)が必要です。つまり「わざと1回かからせて免疫を作る」という話ですね。

フルミストはこの生ワクチンであり、わざとインフルエンザにかからせて免疫を作る仕組みになっています。従って接種後にインフルエンザ症状が出る場合があります。もちろん天然のウィルスをそのまま感染させるのではなく、弱毒化してありますから、ガチでインフルエンザにかかった場合ほどの症状にはなりません。50%位の人に鼻づまりが出る程度です。しかし10%未満の人には熱も出る場合があります。

更に言えば、誰にでも使えるわけではありません。フルミストは若いほど効果が良く、逆に言えば高齢だと効かない。従って使えるのは若い人、日本では2~18歳の人だけです(アメリカでは49歳まで)。ただしこの年齢帯なら1回接種で済みます(アメリカでは8歳以下・インフルエンザの感染歴/接種歴共にゼロを両方満たす場合は1ヶ月間隔で2回接種)

さて、ではどちらのワクチンが良いのでしょうか。

6ヶ月齢~1歳、及び19歳以上の人は問答無用で不活化注射ワクチンです。それしか使えないので。

2~18歳の人は悩みどころ。普通は病気にかかる事自体がイヤなわけですから、その効果があるフルミストの方が良い、と言いたくなります。しかし実際にその効果を検証すると流行年(=ウィルスの型の違い)によって効果のバラツキが大きく、必ずしも不活化注射ワクチンより優れているとは言えないようです。

またフルミストには以下のような問題もあります。

  • 2~18歳にしか使えない。←上記の通り
  • 接種後2~3日でインフルエンザ症状、即ち発熱・咽頭痛・咳・鼻水などが出る(場合がある)←上記の通り
  • 接種前48時間~接種後2週間の間に抗インフルエンザ薬(タミフル等)を使うと、それによって生ウィルスが死滅してしまうのでワクチンの効果が出ないか弱くなる。
  • 気道を感染させるとヤバイ事になる人(コントロールの悪い喘息など)には使えない。
  • 理屈的にはインフルエンザ脳症を起こす恐れがあり、脳症誘発を疑われている薬(アスピリン,ボルタレン,ポンタール等)を飲んでいる人には使えないし、また接種後しばらく飲むこともできない。
  • 免疫抑制剤の長期投与中、または中止後6ヶ月以内の人ではウィルスがドカン!と増殖してしまうので使えない。短期であっても慎重投与となる。(麻疹など他の生ワクチンと同じ)
  • 接種後にインフルエンザウィルスを撒き散らす恐れがあるため、接種後2週間は免疫不全者(抗癌剤使用中,免疫抑制薬使用中,他)との接触を避ける必要がある。
  • 妊婦には接種できない。また接種前1ヵ月~接種後2ヵ月は避妊が必要。
  • 授乳婦は接種できるが、「撒き散らす」恐れから接種後2週間は子供(特に授乳されてるような乳児)との接触を避ける必要がある。事実上、授乳中の母には使えない
  • 同じ理由で兄弟にやるなら全員同時、少なくとも同日であるべき。
  • 鼻汁・鼻詰まりがあるとワクチン成分が鼻腔粘膜にふりかからず、ちゃんと効果が出ない。同様の事は接種時にギャン泣きしてる児でも起こる。
  • ワクチンの製造過程で鶏卵を使うため、強い卵アレルギーがある人には接種できない。(不活化ワクチンと同じ)
  • 高い(約1万円)。でも全年齢1回投与だから、子供に不活化を2回接種するのとあんまし変わんない。
  • (江東区の事情)区で予定されている子供向けインフルエンザワクチン助成金の対象にならない。つまり全額自費。不活化注射ワクチンよりだいぶ高くなる。
  • (2024年に関しては)流通量が少ないその他の事情で、入手しにくい。
  • (当院での事情)入荷の困難等から現状【準備中】です。どうしてもという方は別途ご相談が必要。

このようにフルミストは魅力的なワクチンであるのですが、なかなかに人を選びます。

2024年10月現在の現状では、無理してフルミストを選ぶ理由はあまりないように思います。受験生などにはいいかもしれませんね。カネを気にしてる場合じゃありませんし。

2024~2025年シーズンのインフルエンザワクチン

2024~2025年シーズンのインフルエンザ予防接種は、予約受付を2024/09/24から、接種は2024/10/01から開始します。ご希望の方は事前に必ず予約をお願いします。

今シーズンはワクチン供給が比較的潤沢です。一昨年まで(2021~2022シーズンと2022~2023シーズン)のような極端な物量制限は行われない見込みですが、何がどうなるかわからない昨今です。もう流行ってますし、希望される方はお早めに。

例年であれば、流行時期を鑑みて2回接種の人は[10月後半1回目、11月後半2回目]、1回接種の人は[11月初旬]が良いとご案内しているのですが、2024年はこれが全く当てはまらない。9月でもう流行ってる。文化祭・体育祭シーズンに新型コロナ感染症の流行も重なって学級閉鎖・学校閉鎖もバンバン起きてる。これは「例年とは全く違う」と考えるべきです。準備は早い方が良い。

ワクチンはうって即効く訳ではありませんなるべく早く接種する事をオススメします。この先どうなるのかは誰にもわかりませんが。

接種の要領は以下の通りです。

年齢 1回接種量 接種回数 接種間隔
6ヶ月~3歳未満 0.25ml 必ず2回 2~4週
3歳~13歳未満 0.5ml 必ず2回 2~4週
13歳以上 0.5ml 1 or 2回 1~4週

65歳以上の方や60歳以上の身障者の方(一部)、及び6ヶ月齢~高校3年生(相当世代)には江東区から助成金が出ます。

大学生(相当世代)~65歳未満の人は(一部の身障者認定のある方を除いて)全額自費になります。具体的には1回あたり税込 4,000円 です(不活化注射ワクチンの場合;消費税率10%;内税)。

フルミストは2024/10/01現在で取り扱いがありませんが、どうしてもという方は別途ご相談ください。費用はまだ決まっていません。

インフルエンザワクチンに対する誤解

ホントにもう、一体何度こういう話をする事になるのでしょう。ワクチンに関しては日本はもはや恥ずかしいを通り越すレベルの後進国で、ありとあらゆる誤解がまかり通っていますが、これはインフルエンザに対してもそのままあてはまります。例によってマスコミだの反ワクチンだのの妄言のせいで。

別にやりたくない人はやらなくていいんですが、普通の人が騙されて、回避できたはずの危険にさらされるのはどう考えても正しくありません。だから以下誤解を正していきます。日本は科学の国です。正しい知識を持ちましょう。

インフルエンザワクチンの作り方

【誤解その1】-「インフルエンザワクチンをうつと、インフルエンザになる」

現在日本で使われているインフルエンザワクチン(フルミストを除く)は、インフルエンザウィルスを発育鶏卵に接種して増殖させ、それをエーテル処理等で分解、先述したヘマグルチニン(略称:HA)部分を主成分として回収し精製した、不活化ワクチンです。早い話がウィルスのバラバラ死体の一部分を集めたものです。

勿論こうなったウィルスは生きていませんから、インフルエンザとしての病原性はありません。巷間よく言われる誤解の一つ、「インフルエンザワクチンを接種すると、インフルエンザにかかる」という事はあり得ません。そう主張する人は「バラバラ死体の手が飛んできて、首を絞められた」と真顔で言っているのと同じです。

フルミストの場合は確かにインフルエンザ症状が出る場合がありますが、多くは鼻づまり程度でガチな症状はほとんどありません。しかもコレ、日本では「2024年10月から一部でやっと使えるようになった」ワクチンです。反ワクチンな人達が騒いでいる対象ですらないですね。たぶん知りもしないでしょう。

ワクチンの効果と限界

【誤解その2】-「インフルエンザワクチンなんか効かない」

いくらワクチンをうったって、ウィルスが身体に入ってくる事自体を防げるわけではありません。ウィルスは空気中を飛んでるわけですから、身体に入れないためには息をしないしかありません。死んじゃいますね。つまりインフルエンザワクチンは感染や発症そのものを完全に防御できる訳ではありません。それは確かにそうです。(フルミストはそれを防ぐ効果が期待されているわけです)

ではなぜ接種するのか。インフルエンザワクチンは、ウィルスに感染した時に症状を軽減する為に、つまり重症化させない為にうつのです。もし被接種者がウィルス感染しても、「自分で症状を感じないほど」症状が軽くなったとしたら、その人は「かからなかった」と言うでしょう。感染した事に気がついてない訳ですから。それが一番「いい効き方」ですね。でもそこまでいかなくとも、本来死の危険や非常にキツイ症状に晒されるはずだったものが、接種によって数日の休養で済むようになったなら、それは全然「無駄」ではないと思われます。

具体的にはどの位の効果があるのでしょうか。実地のデータを見ると、以下の如くです。

不活化注射ワクチン接種をすると、接種しなかった場合と比べて、

  • 65歳未満の健常者については、インフルエンザの発症を70~90%減らす
  • 65歳以上の一般高齢者では肺炎やインフルエンザによる入院を30~70%減らす
  • 老人施設の入居者は、インフルエンザの発症を30~40%、肺炎やインフルエンザによる入院を50~60%、死亡する危険を80%、それぞれ減少させる

このように、インフルエンザワクチンの効果は100%ではありません。しかし明らかに危険を減らします。「100%じゃないから意味がない」と言う人は、「道渡る時に、青信号でも横から車が突っ込んでくる事はあるから、信号なんか守っても意味はない」と言ってるのと同じです。

インフルエンザワクチンの副作用

【誤解その3】-「インフルエンザワクチンは副作用が強くて危険」

ワクチン否定教信者の皆さんは、ことさら“副作用”を強調されます。曰く、「ワクチンうったら腫れた」「熱が出た」「ショックを起こした」「死んだ」等々。

では彼らの言うこれは、本当にワクチンの副作用なのでしょうか。

  • 「ワクチンうったら腫れた」「熱が出た」について

そもそもワクチンとは、免疫を付ける為にやるものです。免疫の本質の一つは、「一度戦った相手(病原菌)の事は覚えている」という事です。これにより、既に経験した病原菌にもう一度遭遇した場合に速やかに対処できるので、我々は同じ病気にはかかりにくく、かかっても重症化しにくいのです。

ワクチンは謂わばこの「戦った経験」を事前に積ませるものです。従って当然、接種すればその「戦った反応」が起こります。具体的には局所の腫脹や発熱です。つまりコレ、ワクチンの副作用ではなくて、寧ろ起きて当然の反応なのです。これは極論ですが、そういう反応が全く起きないワクチンは効いた事になりません。

そして何よりもそれよりも、それなりに致死率のある病気にかかるのと、病気は防ぐが接種部位がちょっと腫れるのと、どっちの方がより危険なのか、日本人はまだわからないのでしょうか。

だが我々の国は、不幸にしてマスコミがアレ過ぎて、こんな簡単な原理も理解できずに「ワクチンうったら腫れた」とか大騒ぎを繰り返しているわけです。コロナの時にもやってましたね。やれやれ。

  • 「ワクチン接種後に死んだ」について

たとえ話をしましょう。「黒猫を見た。その後車に轢かれた。事故は黒猫の呪いに違いない!」こんな事を大声で叫ぶ人がいたら、貴方はどう思いますか。

現代に生きる我々は、事故の原因は黒猫の呪いではない事を知っています。21世紀にもなってまだ「呪いに決まっている!」と叫んで譲らない人を見たら、多くの人は肩をすくめて相手にしないでしょう。「非科学的」と嗤ったりするかもしれません。でも昔の人には、「黒猫の呪い」は“常識”でした。

それが否定され、呪いなんて無い事が“常識”になったのは、そんなに昔の事ではありません。一体どうやって我々は「事故は黒猫の呪いではない」って事を理解してきたのでしょうか。

科学的な態度に従って言おうとするならば、実験をするか、それができない場合は統計を根拠に言うしかありません。つまり【黒猫を見た後事故にあった】グループと、【黒猫を見ないで事故にあった】グループを比べ、事故発生率に差がない事がわかれば「黒猫は事故に関係ないだろう」と結論するわけです。反対に前者が後者より明らかに事故率が高ければ、「黒猫を見ると事故にあう」という強い推定になります(実はこの他に更に「因果関係と相関関係」という悩ましい問題があるのですが、ここでは触れません)。この評価をするためには、充分な数の事故例を集めなければなりません。少なくとも数百例は必要でしょう。1例2例では「ただの偶然」という可能性を排除できないからです。そしてそういう努力を積み重ねてきた結果、我々は「事故は黒猫の呪いではない」という事実を理解し、新しい“常識”を手に入れてきたのです。そりゃ世界中には黒猫を見た後に事故にあった人も何人かいるだろうし、これからも出るでしょうが、現代の我々はそれはただの偶然で因果関係ではない事を理解できます。

さて、「ワクチンをうった。その後死んだ。死亡はワクチンの副作用に違いない!」こんな事を大声で叫ぶ人がいたら、貴方はどう思いますか。

現在では、ワクチンの安全性は世界中で何度も何度も証明されています。100万人に1人程度の割合で重篤な神経系の健康障害を生じ、後遺症を残す例も報告されていますが、それが本当にワクチンの副作用なのかどうかはわかりません。数が少なすぎて検証できないからです。勿論非常にまれにはワクチンの成分に強く拒絶反応を起こすような、特異体質的な方もいらっしゃるでしょう。だがそういう希な例を挙げて社会としてワクチンを葬ってしまうのはあまりに残念です。そういう危険はインフルエンザ自体の危険に比べて、非常に小さいからです。

この話を読んで、なお「ワクチンは怖い」と思う方は、別に接種しなくて構いません。特に日本では、科学的分析や実験事実によってでなく、宗教的な思い込みからワクチンを敵視する人がいまだに多いのは事実です。そういう人はご自分の信ずるところに従って生きて下されば結構。ただし、科学に従って生命の危険を回避しようとしている人、特に子供の、邪魔をしないでください。これだけはお願いします。

現在のインフルエンザワクチンの問題点

もちろん、人類の技術的限界により、現在のインフルエンザワクチンは決して完全なものではありません。今後解決されるといいなぁと思う課題もあります。

  • 既述のごとく、インフルエンザウィルスは頻繁に変異を起こすため、流行毎に今までと違う新しいウィルスとなってしまう。従ってワクチン生産に当たっては、次シーズンに流行りそうなウィルス型を的確に予測して作らねばならず、患者側もそれに合わせて毎年毎年接種しなおさないといけない
  • この「予測」はなかなか困難で、大きくはずれた場合は、ワクチン接種をしても実際に流行するウィルスに対しては大した効果を持てない。
    (ただし最近の「予測」はかなり正確になってきており、そういう事態はほとんど起こっていません。)
  • (不活化注射ワクチンの場合)一般に不活化ワクチンによって得られる免疫は時間とともに減弱するが、インフルエンザワクチンの場合もまた然りで、且つ他ワクチンと比べても比較的短い。いわゆる“賞味期限”、即ち有効な防御免疫の持続期間は、普通に考えて5~6ヶ月、厳しく見ると3ヶ月程度しかない。だが実際の流行がいつからいつまでかを事前に予測する事は困難なので、「いつ接種するのがベストか」について、明確な答を得られにくい。
    (フルミストの場合)効果が長く、1流行期はじゅうぶんカバーできるので事実上この問題は気にしなくて良い。
  • 既述のごとく、現行ワクチンの感染防御効果や発症阻止効果は100%ではないので、ワクチン接種を受けてもインフルエンザに罹患する場合がある。この場合、患者はウィルスを外部に排出し新たな感染源となるので、もし全員が接種を行ったとしても社会全体のインフルエンザ流行を完全に阻止することは難しい。
  • 特にA型インフルエンザは、ヒト以外にトリ、ブタ、ウマなどを自然宿主とする人獣共通感染症なので、ヒトだけが予防をしまくっても、トリやブタから新たなインフルエンザが登場してくることを防ぎ得ない。つまり根絶はできない。
  • インフルエンザの確実な感染防御には、気道粘膜免疫に直接免疫を持たせる事が合理的であり、また発病からの回復過程には細胞性免疫が重要であるが、(日本で)現在使われている皮下接種ワクチンでは、これらの免疫はほとんど誘導する事ができない。

現在のインフルエンザワクチンは、確かにこのように不完全です。将来もっと改善される事を望みます。しかし既述のごとく、今のワクチンでも、特にハイリスク群に対するワクチンの効果は明らかに証明されているし、皮下接種でも血中の抗体産生は十分に刺激できる事がわかっています。「効果が不完全だから接種しない」というのは、「どんな地震でも絶対に壊れない家ができるまで野外で暮らす」というのと同じです。私はそんなの全然合理的じゃないと思うんですけどね。

具体的なワクチンについて

【不活化注射ワクチンの場合】

2014-2015年シーズンまで、世界で使われているワクチンは、A型について2種(いわゆる“新型(H1N1)” + “香港型(h4N2)”)とB型について1種、計3種のインフルエンザ対策が含まれたワクチンでした(正しい用語としては「3価ワクチン」といいます)。

しかし昨今の流行情勢を鑑み、2015秋シーズンからB型についてもう1種追加され、A型B型それぞれ2種ずつの、合計4種のインフルエンザ対策が含まれたワクチンになりました(「4価ワクチン」といいます)。

2024-2025年も同じく4価です。ただし、実はB型の2種の内の1種(Yamagata系統)は新型コロナ感染症の流行とその対策としてのマスク装着+手洗いの習慣などによって駆逐され、地球上からいなくなってしまった可能性が高く、アメリカでは同シーズンからインフルエンザワクチンを3価に戻しています。日本でも2025-2026シーズンは同様の形になるかもしれません。

【フルミストの場合】

日本ではフルミストを2024-2025シーズンから製造するため、上記の事情を鑑み最初からA型2種+B型1種の3価ワクチンとして製造しています。欧米では以前から使っていたためこの変更がまだ行われておらず、同シーズンは4価のままです。

安易に「欧米は進んでいる!」とか言っちゃダメってことですね。勉強になります。